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とある風の強い日に、父の店は潰れた。

とある風の強い日に、父の店は潰れた。

店と言っても、立派なビルを構えるような大それたものではなく、ただの小さな工房のことである。

作られる商品そのものよりも、長い歴史と伝統の方に価値があるような工房だったので、儲けはサッパリであったが、それでも幼少の頃から技術を仕込まれ、更にここまで維持してきた父にとっては、とても辛い事件であった。

さて、「とても辛い事件」と書いてはいるが、実のところ僕は心の中で「ざまぁ~みろ!!」と叫んでいた。
父と同様、歯も抜け切らぬうちから、厳しい教育によって技術を仕込まれていた僕は、かなり前からこの工房を継ぐことに希望を見出せないでいたし、この時代にペット(猫)の一匹も買ってくれない昔気質の父に、僕はウンザリしていたのだ。

ただ、そんな僕でも、工房が潰れる直前まで、近所にある知り合いの楽器店に「金を貸してくれ」と土下座していた父を見たときは、胸が痛んだ。
別に、父の姿そのものに同情していたわけではない。
最近、急に繁盛しだした楽器店と、時の大河に流され消えていく伝統工芸の有様によって生みだされた「土下座する父」という光景を見たとき、伝統を守るためだけの技術を仕込まれてここまで育った僕は、父の滑稽な背中と同じだけの存在価値しかない…と考えてしまうと、こんな僕でも心が痛むものなのだ。

まぁ、しかし、落ち込んでいても仕方がない。
時代は変わり続けるものである。
生けるものはやがて死に、死にゆくものは、命を残す。
全ては必然であり、受け入れるべき事実なのだ。
うん。なんだか希望が湧いてきたぞ。

そうだ、家に帰ったら、元気の出そうな話を父に聞かせてやろう。

今朝、工房の倉庫。

もう売ることもできず無駄になると思っていた大量の桶の、その中の一つをひっくり返したら、ネズミの親子が巣食っているという、小さな出来事。

誰に知られることもなくネズミを育んだ父の桶は、利益を生まずとも最後まで何かの役に立っていた、そんな素晴らしいものだったのだ。

と、そんな話を…。

~屁理屈工房 ありく~

―風が吹けば桶屋が儲かる―

強い風で土ぼこりが立つ

土ぼこりが目に入って、盲人が増える

盲人は三味線を買う←当時の盲人が就ける職に由来

楽器店が繁盛する

三味線に使う猫皮が必要になり、ネコが殺される

ネコが減ればネズミが増える

ネズミは桶を囓る

伝統的な木製の桶を作っている桶屋には、被害が出る

店が潰れる

息子が、心強く逞しい人間に育つ

将来、伝統を蘇らせる(…という可能性は捨てきれない)

桶屋が儲かる(…ことだって、無きにしも非ず)

以上!!

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